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MDR通信 No.45 人は幸せになるために生まれてきたと思える社会を目指す

ホスピス・緩和ケア領域を専門として28年が経ちます。限られたいのちと向き合う中で学んだことは、弱いことは、決して不幸なことではないということです。
医師として願うことは、人が幸せになることです。そのために知識、技術、態度を身につけ、患者さん・家族と向き合ってきました。医療の発展はめざましく、数年前では治療が困難と言われてきた進行がんでも、免疫チェックポイント治療により、パラダイムシフトが起きています。その一方で、どれほど最善を尽くしても、治すことができない患者さんもいます。
Aさん(40代女性)は、膵臓がん末期のため3カ月のいのちと診断されました。ご主人と6歳のお子さんがいます。母としての役割を失い絶望の暗闇の中にいました。「迷惑ばかりかけて、ごめんね。良いお母さんでいられない。なんでこんな目にあうのだろう? 私これからどうなるの?」

 励ましもなぐさめも通じない苦しみの前で、私たちは何ができるのでしょう。この問いをいつも心に留めて、苦しむ人と向き合い続けてきました。苦しんでいる人が笑顔を取り戻すのは、原因である病気を治すだけではありません。
「苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいると嬉しい」
永年、看取りの現場で培ってきたホスピス・マインドの心得の1つです。たとえ絶望の中にいても、自分の苦しみをわかってくれる人がいたならば、世の中は違って見えます。落ち着きを取り戻しながら、いろいろな気づきが与えられていきます。決して1人だけで生きてきたのではないこと。今までつらいときにもそばに家族がいて、友人がいて、特に子どもたちの笑顔が大きな力になっていたこと。もしかすると、今の苦しみは、子どもたちが将来受ける苦しみを私が代わりに受けていて、子どもたちの幸せにつながっていると思えたならば、苦しみの意味が違って見えてきます。

弱いことは、決して不幸なことではありません。人は、弱いからこそ、誰かのあたたかさを実感することができます。人は弱いからこそ、誰かを思いやる気持ちが生まれてきます。この誰かとのつながりが、幸せを実感できる大きな力となります。
医療は、国民を幸せにする大きな役割があります。それは、すべての苦しみをゼロにすることではありません。超高齢少子多死時代、社会保障費の高騰、社会的孤立など、解決が困難な社会課題が山積する中で、社会のWell-beingに寄与するためには、問題解決志向だけは、向き合うことができません。いのちの限られた人との関わりで培われたホスピス・マインドは、その糸口になります。
たとえ厳しい時代が来たとしても、人は幸せになるために生まれてきたと思える社会を目指したいと思います。その一歩として、ホスピス・マインドが、医療だけではなく、福祉・教育・企業経営などの領域にも広がることを夢見ています。

めぐみ在宅クリニック 院長
エンドオブライフ・ケア協会 代表理事
小澤 竹俊

めぐみ在宅クリニック 院長 エンドオブライフ・ケア協会 代表理事小澤 竹俊

 

東日本大震災から11年:母子保健領域における自治体防災事業の広がりと被災当事者への働きかけ

現在、世界一の少子高齢化が進む日本では、災害時要配慮者のうち最も少数派である妊産婦(人口比0.6%、2019年人口動態統計より)や5歳未満の乳幼児(人口比4.6%、同)における災害時のニーズが見えにくく、特にCOVID-19による急速な出産人口減少で2020年の出生数は84万人に減り、妊産婦や乳幼児の姿を見ることがさらに少なくなってきました。妊産婦や乳幼児は特有の健康リスクがあり、災害時も特別な支援を必要とする、医学的にも社会的にも弱い立場にあります。
2011年の東日本大震災のような未曾有の災害であっても、小児周産期医療従事者や自治体担当者、消防関係者が普段の仕組みを活用しながら妊産婦・乳幼児を守るシステムがあれば、ワークフローの負荷やマンパワー不足があったとしても母体や胎児、乳幼児のダメージを防ぐことができます。今般のCOVID-19感染症対策も踏まえ、どんな災害にも対応できるよう自治体や当事者を中心とした二重三重の備えを進めることで、平時の絆づくりにもつながります。

新型コロナウイルスの専門病院

今後は、①既存システムと連動させた福祉避難所(妊産婦・乳幼児)マッピング、②地域の母子の人数を推定し対応を検討するためのツール開発、③コロナ禍に対応したオンライン講座、④電子媒体による所在把握・安否確認システムが必要です。そして、産婦人科・小児科の医療従事者だけではなく自治体の防災担当部署や消防、地域の避難所運営組織や教育機関が連携し、分担することで、組織横断的なつながりが生まれます。
政府は2021年5月に指針を改定し、指定福祉避難所ごとに、「高齢者」「障害者」「妊産婦や乳幼児」など受け入れ対象を決めて事前に公示できるようにした上で、自宅からの直接避難を促進するとしました。ただ、そうした避難先があっても被災当事者に知られていない場合が多いといいます。そこで、自治体の整備状況を調べ、地図上に表示する取り組みを始めました。これが、災害時母子避難所マッピングプロジェクトです。このプロジェクトでは、先行事例をもとに、自治体のガイドラインや取るべき行動を提案するアクションカード、備蓄リストを取りまとめ、今後各自治体が専用の避難所を開設する際の指針の参考にしてもらうことを目的としています。

情報プラットフォーム https://giftfor.life 

ウェブサイトの特徴

■母子避難所シェルターマップ
母子避難所シェルターマップマッピングサイトには、現在も災害時母子避難所情報が続々と追加されています。全国各地で母子支援のために活動される方はぜひ情報提供をいただければうれしいです。
問い合わせフォーム
https://giftfor.life/contact/

■誰でもどこでもいつでも学べる災害対応資料
https://doc.giftfor.life/災害時母子を守るネットワーク研修資料_吉田.pdf
こちらでは、研修資料、エビデンスをだれもが無料でダウンロードできるようになっており、各地で公共財として利用されています。

■すぐに使える書き込み式防災ノート
https://giftfor.life/tool/
すぐに使える書き込み式防災ノート平時から当事者のための災害時対応について「あかちゃんとママを守る防災ノート」等、啓発パンフレットを無料でダウンロードし利活用できるシステムがあり、全国の自治体でも幅広く啓発に使われています。

■防災のためのオンライン研修動画
giftfor - YouTube
子どもを抱える親がいつでもどこでも各自の都合に合わせて学ぶことができるようなオンライン講座の動画も公開されていますので、新型コロナ禍で各自が災害に備える活動の一助となることが期待されます。

 

災害時に子どもを守るための制度設計は、国の母子保健施策の柱である「健やか親子21(第2次)」の指標の中でも大きく取り上げられている課題です。皆さんが災害時の母子をどうやって守るのか、平時から当事者に向けてどのような啓発を行い、地域の絆作りを進めていくのか、ぜひ、アイディアをお寄せください。

神奈川県立保健福祉大学大学院
ヘルスイノベーション研究科教授
吉田 穂波

吉田 穂波

 

 

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