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MDR通信 No.48 災害に強い地域づくりに寄与する病院

減災をめざすHealthcare BCPコンソーシアムの取り組み

地震・風水害をはじめとした自然災害の影響を抑えるための「備え」が求められています。災害は脆弱なグループを襲うことが明らかになっており、超高齢社会を迎えている我が国では、高齢者のための備えが不可欠です。たとえば、東日本大震災において、被災死亡者における60歳以上の高齢者の割合は、被災3県における当時の高齢者の人口構成割合より高く、近年の風水害においても同様です。

阪神淡路大震災と東日本大震災を経験し、わが国の病院の災害対策は、着実に整備されてきました。災害時に被災域外からの支援により、被災地域で低下する医療機能と増大する災害医療ニーズを受け止める災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team: DMAT)は、近年の災害において大きな役割を果たしてきました。災害拠点病院での事業継続計画(Business Continuity Plan: BCP)の策定も義務化されています。

これらの病院災害対策に加え、私たちは、自然災害後の病院搬送前の死亡割合が高いことを重く受け止めています。災害の影響を最小限に抑えることができないか。発災後の災害医療に加えて「平時」の日常診療で地域の災害レジリエンスを高める病院の役割を位置付けることができないか、これが私たちの問題意識です(Disaster Resilience; 減災または縮災)。Healthcare BCPコンソーシアムでは、概念的な枠組みを整理しつつ、病院評価事業に携わる専門家との議論を重ねてきました。

 

概念フレームワーク

本年5月、災害に強い地域づくりに寄与する病院に関する概念フレームワークを、国際誌に発表しました(図1参照)。先行研究を整理しますと、病院の災害対策の概念は、国内外で(1)「危機時」のサービスの提供を目的とする病院内の事業継続計画(BCP)が中心であることが明らかになりました。そこで、新しい概念フレームワークでは、(2)「平時」の災害への備えに関する地域マネジメントの必要性を加えたのです。これは平時の医療・介護連携を通して地域の医療・介護組織の災害への備えを強化する病院の役割(2-1)と、医療・介護以外の地域のインフラの保全と地域マネジメントでの災害への備えを促す病院の役割(2-2)に分類できます。これらの「平時」の取り組みを加えることで、災害時の医療需要を抑えるとともに、災害時に災害医療機能の持続可能性が高まることが期待できると考えています。

図1.概念フレームワーク:災害に強い地域づくりに寄与する病院 *

 

災害に強い地域づくりに寄与する病院のための評価基準と先進事例

以上の概念整理と並行して、Healthcare BCPコンソーシアムでは、災害に強い地域づくりに寄与する病院を評価するための基準づくりを進めてきました。図2の左側が評価基準であり、右側は先進的と考えられた病院事例を記載したものです。第1領域では、病院内組織の災害への備えの体制を確認します。これは図1の概念フレームワークにおける病院内BCP(1-1と1-2)に対応しています。

第2・第3領域は新機軸の評価領域です。第2領域は概念フレームワークの(2-1)に対応し、地域の医療・介護連携を通した災害への備えの重要性を病院が発信しているかを評価します。災害時には、近隣の医療・介護組織からの診療依頼や患者の来院が急増します。ただ、来院者の中には地域の医療介護連携組織で対応可能な場合も少なくないことが、これまでの大震災の経験からわかってきています。災害拠点となる医療機能の役割を最大限に発揮するためには、災害時も各医療・介護組織が平時と同じ医療介護サービスを提供できるように日ごろから支援することは意義があるのではないでしょうか。たとえば、労災病院が実施している圏域の介護施設や福祉施設に対する、新型コロナウイルス感染症に関する感染管理の訪問研修は、この領域のモデル事例ということができます。

第3領域は概念フレームワークの(2-2)に対応し、地域の諸組織に相手方を広げ、多様な関係者への災害への備えの重要性を、病院が発信しているかを評価します。この領域は、現在も評価内容の検討を続けていますが、和歌山ろうさい病院が保育園や幼稚園・小学校へ訪問研修すること、日本赤十字社の病院が地域のボランティア組織と連携を図っていることなどは、第3領域の好事例と考えられます。

図2. 開発した評価基準と先進事例

 

地域づくりへの活用方法とMRD

Healthcare BCPコンソーシアムの取り組みは、病院内BCP、地域の医療介護組織との連携、そして地域マネジメントへと、災害に強い地域づくりに寄与するための病院機能の可能性を拡張させてきました。医療資源開発促進機構(MRD)の問題認識である「医療資源は有限であり、人的資源、物的資源のみならず、それを支える経済的資源、情報的資源全てが足りず、又、完全に機能出来ていないのがわが国の現状」を改善するためには、医療サイドも地域の医療資源との有機的な連携の強化が求められます。Healthcare BCPコンソーシアムの取り組みが、MRDに関係する皆様の課題解決への手がかりのひとつとなることを願っています。

 

さらに学びを深めたい皆様へ

【労働者健康安全機構報告書】災害に強い地域づくりを目指す労災病院.令和元年度 労働者健康安全機構プロジェクト報告書, 2020.(https://www.johas.go.jp/kiko/tabid/1713/Default.aspx

【上記以外の資料・オンライン研究会情報などが掲載されています一般社団法人 Healthcare BCPコンソーシアムホームページ】(http://hcbcp.umin.jp/index.html

【東北医科薬科大学主催のフォーラム】病院と地区防災計画との関連で、8月30日(火)午後に、オンライン・仙台医療減災フォーラムを開催いたします(後援:Healthcare BCPコンソーシアム等)。ご興味のある方は、医療管理学教室ホームページ(https://sendaiforum2030.wixsite.com/hpm-tmpu/schedule)をご覧ください。

一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム
東北医科薬科大学医学部医療管理学教室 伊藤 弘人

一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム
(独)労働者健康安全機構 有賀 徹

一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム
戸田中央メディカルケアグループ 野口 英一

一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアム
日本政策投資銀行 蛭間 芳樹

 

 

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